File.2 人を見た目で判断してはいけません!
 午前より買い出しに行ったときのことです。
 目的の物は隣町まで行かなければないとのことで、歩くともなればそれなりに時間も掛
かりますので、早めに出発した次第です。
 一緒に来ていたシェリファさんとも相談して、昼食はそこに着いてから、買い物をする
前にとっておこうということになりました。
 店は酒場に入りました。この時間帯では、そこのほうが安い費用で済むのです。
 しかし、この判断がのちのち命とり……というほどでもなかったのですが、もしかする
とあとあと面倒なことになるかもしれません。

 それなりに大きな町のなかの、目立つ店ではあるのですが、正午の時刻であるためか、
お客さんの姿もほとんど見当たりません。
 それで、カウンターの席に案内されたので、そのままそこに座りました。
 注文した料理もそれほど待つことなく来ましたし、早めに済ませることができそうでし
た。
 とりあえず食事だけしておこうと思ったのですが、ドリンクもあるとのことで、そちら
も注文しました。その微かな判断をしたために生じた時間差があの事態を起こしたともい
えるかもしれません。
 途中、別のお客さんたちが入ってくると、隣の席に腰を掛けて、わたしたちに話し掛け
てきたのです。女性客であるわたしたちが珍しかったのか、それほど話し掛けやすい様子
であったのかはさておき。なにか嫌なことをされたというわけではなく、むしろ感じがい
いぐらいでした。
 そこまでは問題なかったのですが、ことの起こりは、ぽつぽつとお客さんが入りはじめ
てしばらくしたときのことです。

「お嬢さんたち、これから暇なら俺たちと遊ばない?」
 いわゆるナンパというものに遭ってしまいました。話し込んだ後にすっかり気が抜けて
いたようで、つけ入るすきを与えてしまったようです。
「悪いがこれから予定があるのだ」
 ナンパを断る常套句ではあるのですが、シェリファさんの場合、本気で相手に向き合っ
て言っているのです。
「そう言わずにさあ」
 その男の人が、わたしに触れてきたそのときです。ついにシェリファさんが怒って剣を
抜いてしまったのです。
 彼らは、いったいどこから取り出したのだといったように驚愕していました。……まあ、
それはそうですよね。
 シェリファさんに武器を取らせて勝てる人なんてほぼ皆無。達人の域にいる人でも難し
いでしょう。牽制で済んでいる今のうちにお逃げくださいと、このときまでのわたしは、
彼らに同情的でした。
 しかし、彼らはさまざまな意味で程度をわきまえていないようで、所持していた小刀を
取り出してシェリファさんに襲い掛かっていったのです。
 そこで、わたしもついにはらわたが煮えくり返って、持っていた弓を取り出しました。
 シェリファさんならこのぐらい簡単にあしらうことができる、それどころか峰打ちぐら
いで済ませることができる。常時なら分かりきっていることすら忘れて、わたしも反撃に
出たのです。
 普段は心の奥底で眠っている、わたしの獣性が目を覚まします。
 そして、あらゆる方向に、容赦なく矢を放ちます。そのときのわたしは本当に獣のよう
な形相だったかもしれません。
 もちろん、人のいるほうには向けないように、彼らにもけがをさせないように調節はし
ましたが。
「わたしのなかのこの獣、飼いならしはじめてまだ日が浅いんです。ですから、ある程度
は注意を払っていただけると助かります」
 先ほどの埋め合わせをするように笑顔で告げると、こちらの言いたいことは伝わったの
か、この場から早々に引いていきました。
 わたしが武装を解くと同時に、シェリファさんも一息ついた様子で剣を収めました。
「自業自得とはいえ、あわれなものだな」

 その後、酒場を出ると、再び目的の店へと向かいます。
 ちなみに、酒場で騒がせてしまったことについては不問にしていただけました。けが人
も出ておらず、損害も大したことはないとのことで。なにより、迷惑な客を追い払ってく
れたからと。しかし……。
「だいぶ目立ってしまいましたね」
 それは『神隠し』を名乗る上ではあるまじきことです。
「その辺りは、あの方になんとかしてもらえばよかろう。そのぐらい朝飯前だろうし」
「それもそうですね。なにしろ、特定のものを隠匿して気づかれにくくする術を持ってま
すし。――武器を持っていることすら、取り出してみない限りは知られないような」

 ひとまず、頼まれていたものを購入して、彼のもとに届けるとしましょう。

                               エレン・シフィール 

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