+. Page 019 | 動き出す運命 .+
 出発のあいさつをするために教会へ立ち寄っていたレオンたちは、そこから出てくると、
今度は広場のほうで足をとめた。
 このフレンジリアの町を見わたすと、王都アーメンベーレから派遣されてきた兵士たち
が、武器を携えてそれぞれの個所に構えている。
「あいつら、あまり実地経験があるようには見えないが、だいじょうぶなのか」
 アレクが指摘すると、そういえばと思い至るレオン。
 彼らのなかに、レオンの顔見知りである者はいない。ここにいる兵士たちは、レオンが
旅に出てから就任した者か、彼とは顔を合わせる機会がない傭兵であるかだろう。
 レオンが王子であることを知られないようにするためには、レオンと鉢合わせしたとし
ても、目くばせもしない保証のある者たちでなければならない。彼の父である王は、そこ
まで予測してのことだろう。
「それで、あの神父が言うには、王都の方面から総本山のほうに使者を送って、向こうか
らも対策を練ってもらうということだが」
 なにかもの言いたげな調子で続けるアレク。
「当然、知ってるんだな。この町の歴史が遊郭にあることを」
「はい。役職柄、もちろんご存知でしょう。総本山にいる者たちならなおさら。そして、
あの事件の意味も把握してるはずです」
 あくまで事実を淡々と語るトワに、アレクは毒気を抜かれたように息をはく。
「その総本山があるエレバローデまで、トワもいっしょに来てくれるんだよね」
「ええ。ご迷惑をお掛けしたお詫びという意味もありますが、総本山のほうには個人とし
ても確認したいことがございますし」
「操られたことについての心当たりも含めてだな。俺らにも関係のあることだしな」
「それに、わたしに掛けていた術が解けたことを気付かれると、この近辺に捜索が入る可
能性があります。今からでもここを離れたほうがいいですね」
「それじゃ、ここに来たしるしを支配人にもらってくるついでに、まとめた荷物を持って
くるから、ちょっと待ってて」

 そうしてレオンが走っていった後。
「本当にこの旅に付き合うつもりなのか。そのほうがいろいろと効率がいいのは確かだが」
 考えなおすなら今のうちだというふうに言うアレク。
「戦闘になったときは魔術で援護できますし、多少は歩きなれてますからご心配にはおよ
びません。それに、レオンといっしょに行く理由は、あなたと同じだと思いますよ」
「まあ、あいつの人となりは問題ないがな」
 それに、彼女をひとりにしておくほうが、レオンとは別の意味で危険だと。アレクは、
そう思いなおして、これ以上とめることはしなかった。
 アレクは、彼と最初に会ったときのことを思い出して語る。口調はともかく、立ち振る
舞いだけ見れば礼儀はあったと。
「俺が気になってるのは、あいつが旅する理由だ」
 それなりに上質な旅装束に身をまとい、どことなく優雅な雰囲気を漂わせていることか
ら良家の人間だということがうかがえる。
 セルヴァールで会ったときはまだ旅を始めたばかりという風体であったことから、王都
のほうから来たということと合わせて考えれば、それは間違いないだろう。世間知らずな
一面があるともなればなおさらだ。
 しかし、戦闘の訓練は受けていたように思える。実戦の経験はあまりないように思えた
が、剣技の型はしっかりとしていた。本能のおもむくままの言動が多いこととは裏腹に、
剣を振るうときの動作は洗練されているぐらいであった。
 まるで、はじめから彼に旅をさせることを想定していたような――。
 そうは言っても、彼は大切に育てられていた印象のほうが強く、だからこそ混乱するの
であり、むりに連れて帰って談判しようということのほうが難しかった。
 それ以前に、彼自身が、この状況を当然のように受け入れているということが難点なの
だ。
 それなりの事情はあるのだということは推察できる。彼が、肝心なことは頑なに語ろう
としない様子も含めて。
 やはり、決められたとおりに旅をさせて、それに同行したうえで確認するしかないのだ
と。
 アレクがそのように語ると、トワは静かに耳を傾けていた。そしてなにかを納得したよ
うですらあった。
 アレクは、世話焼きである自覚はそれなりにあるようだが、今回に至っては、それがわ
ざわいしたというべきなのか、大いに助かったととらえるべきなのか、複雑な心境でもあ
るようだ。
 それからしばらくしてレオンが戻ってくると、旅はこうして再開されるのであった。

 ――あの女の位置がつかめないだと?
 ――どこでなにをしているかはともかく、見失ったともなれば厄介です。早々にさがし
だす必要があるでしょう。
 ――数日前、フレンジリアでは予報外の大雨だったとか。それも、不自然な雲の動きに
よるものと。
 ――まさか、彼女か?
 ――可能性は高い。まずはそこを中心に捜索するぞ。

 ――術による反応が消えただあ?
 ――よほど強い衝撃を受けたのか、それとも自力で逃れたのか。いや、条件を満たさな
い限り、そんな簡単にはらえるはずがない。
 ――まさか、返り討ちに遭ったのでは……?
 ――ええい、万が一にもそいつらと行動をともにしてるとなると、こちらが不利になる。
とっとと状況を確認して来い。
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