食卓はちょうど八人分の席を設けられるほどの広さである。その上には、パンに挟まれ
たハムに卵、野菜や果物など、色とりどりに盛りつけられた品目が並んでいる。透きとお
るような色をしたスープが、さらにそれを引きたてる。
「わあ、おいしそう……!」
「ほう、大したものだ」
素直な感想を述べるアンネに、ゼイン。数々の料理の、調和された香ばしさが加われば
余すことなくとりこであった。
「あれ。師匠、今回はいつもより簡単なものなんですね」
「え?! いつもはもっとすごいの?」
グランの問いかけにアンネがおどろいていると、
「うん、ある意味ですごいな」
「ラフォルが作ったものにしては味気がないほうよね。いつもなら、なんの料理なのかわ
からなくなるぐらいに創作されたものが出てくるのに」
そう答えるレキセイと、そう説明するリーナ。
「その日をどのように過ごせるかは、食事と新鮮なおどろきに懸かってるのさ。命運を分
けるといっても過言じゃない」
よって意匠の凝らされた料理は強力であるなどと、当のラフォルはにこやかに述べる。
「とにかくだ、食えればなんでもいい」
アルファースがそう言って手にしたのは、コッペパンの間に焼きそばが挟まれたもの。
麺は割りにしなやかあり、太めであるようだ。彼がそれを口に運んでかみしめると、
「おい……。これ、パスタじゃねえか」
ラフォルは微笑を浮かべて、
「もしかすると気づかれるかなと思ったけど、成功したようだね」
ちゃんと工夫はしてあったでしょう。そう言わんばかりに。
「人の口に合わないメニューは作らないよう見張ってたから大丈夫よ」
そう告げたカノンのかたわら、アルファースは、空腹をしのぐことが第一であるという
考えが根づいているため、それ以上は気にした様子もなく、焼きそばパンもといパスタパ
ンをほお張りつづける。
そして、アンネが、別のサンドイッチを手に取る。
「これは、なにかあると見せかけて、ただのカツサンドよね」
薄く切った食パンに挟まれている、パン粉をまぶして揚げたもの。揚げ物の切り口から
は、こんがりとした肉のようなものがかいま見える。さらに、千切りされたキャベツが挟
まれており、濃厚なトンカツソースで味つけされている。
彼女が、それを口に運んでかみしめると、
「……あれ、こっちはコロッケ?」
「それは、おもにしょうゆで煮たじゃがいもを裏ごししてコロッケにしたものなんだ」
平然とした面持ちで解説するラフォル。
「くやしいい。だまされた。もう、なによこれ、おいしいじゃない」
怒りと感激をせわしなく表に出すアンネであった。
「スープや飲み物はいつもどおりだから大丈夫よ。ましてや薬なんて入ってないから」
「紅茶に睡眠薬が入れられてるって分かってて飲んだ人もいたことだしね」
一部で物騒な会話も繰りひろげられていたが、こうして休憩の時間は和やかに過ぎてい
った。
「そうだ、師匠。去年は、たこ焼きだと思って食べたのがいか焼きだったんですから、い
つか作り直してもらいますよ」
さて、話はいったんここで終わることにする。
〜 エイプリルフール戦線(休憩の部) 終 〜
|