File.5 能鷹隠爪、烏合之衆
 襲撃は、思いもよらない時刻に起こった。
 午後三時をまわった頃、もしくは夕方近くだったかもしれない。
 昼からにしろ夜からにしろ、切りのいい時刻だと、迎え撃つ準備も万全にされていて、
不意を突けないからだと言われれば、まあ道理か。
 これではおやつを食べる時間すらろくにないが。
 事態の予測はできていたため、近隣の住民たちの避難が完了していたことは幸いであっ
た。
 そして敵は、空と陸の部隊に分かれており、さらにそれぞれ何個隊にも分かれていた。

 陸ではないほう、つまり空の主力を引きつけるのは、我ら『神隠し』の任務となった。
 我らの手腕を見込んでとのことだが、盾にされたようなものだろう。
 いや、そこは我ら、特に主には責任の一端はあるのだから、強くは言えないが。
 ほかの部隊の者たちには、なぜだか、こちらの構成員の数が百人以上はいるだろうとい
う認識をされている。
 実際には、主を入れて六人しかおらず、かなり少ないほうだといういうのに。
 しかも、主はろくでもないことに、それを訂正するどころか、その状況を利用してそう
思わせようとしている節がある。
 敵をあざむくにはまず見方から、これこそが神隠しの奥義などという、理屈になってい
るのだかいないのだかさえ分からないような理論で。
 それにしても、この論でいうと、隠すどころか増えているではないか。
 しかし、我らも我らで、積極的に否定しようとはしないのだから、まあ同罪か。

 さて、我らも、所有する飛行船に乗って戦闘に参加するわけだが。
 看板のほうに出て迎え撃つのは、わたしとゼイオスである。
 そうは言っても、こちらはあくまで遊撃であって。主力は、砲撃手のファクトに、オペ
レーターのエレン、そして操縦士のアゼイルなのだ。
 早速、敵の大艦の周りから、多数の小艦がハエのごとくやって来る。
 まず、こちらに注意を引きつけるため、これ見よがしに刀を構える。
 すると案の定、こちらに向かって弾を撃ってきた。こちらが生身である思って油断して
いるためか、牽制程度の銃撃であった。
 わたしもゼイオスもとっさによける。敵があっけにとられているその合間に、身をかが
めて透かさず懐に跳びこむようにしながら刀を振るう。
 刀での攻撃を命中させやすい位置、つまりこちらの艦にやって来るぎりぎりのところを
見計らって薙ぎ払う。最新鋭の機体を相手に古式の刀、しかも向こうからしたら棒切れの
ようなものでしかないゆえ、脆弱な部分をねらったこけおどしにしかならないが。
 そのかたわらでゼイオスが、槍で突いて応戦しており、ときには敵の機体に向かって、
すれすれのところをねらって投げて。
「ほう。普段は周りに合わせて抑えてるのにやるではないか」
「溜まってた反動が出ただけだ」
 わたしが感心して言うと、ゼイオスは投げやりな様子でそう言った。
 しかし、敵もいつまでもあっけにとられているわけでもなく、早々に立て直してきた。
 わたしは、今度こそ武具での攻撃は通用しないと判断して、ある手段に出る。
 隠し持っていたあれを取り出して、敵の機体の羽根の部分をねらって発砲する。
 それにしても、この破裂するような音は、本当に鼓膜が破れてしまいそうである。
 彼らは、よほど予想外であったらしく、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「銃を使うことができないなどとは一言も言ってないのだがな」
 そして、敵たちが完全に調子を狂わせているその瞬間に、我らの艦からも四方に砲撃が
繰り出される。
「ゼイオス、シェリファ。艦を動かすから、こっちに戻ってきてくれ」
 スピーカーからアゼイルの声がすると、我らも今のうちに艦の内部へと入っていった。

 操縦室では、監督である主のかたわら、ファクトにエレン、アゼイルが対処に勤しんで
いた。あとは彼らに任せるしかない。
 早速、補助席のほうから、警告音が鳴り響く。
「敵の大艦を中心に、多方面から続々と小艦が向かってきます。こちらの艦を完全に包囲
するつもりでしょう」
「アゼイル、まずは艦を左に約四十二度かたむけてくれ」
「おまえの約は細けえよ。せめて四十五度にしてくれ。まあ、やってみるけどさ」
 三人の連携によってどうにか順調といえる戦況ではあったが、これを保たせることは難
しいだろう。いくら彼らが有能だからといっても、多勢に無勢であることには違いないの
だ。

「それじゃ、ここは僕の出番だね」
 緩やかに席から立ってそう言ったのは、我らが主。普段から悠々としているが、今の緊
迫した状態がさらにそれを際立たせているようだ。
「まさか、あの力を使うつもりですか」
「待ってください。それはあくまで最終手段であるべきです。そうでなければ、あなた自
身が――」
「だああ、もう無理。集中力が持たねえ」
「さすがに、この数の軌道を計算に入れながらでは、砲撃が間に合わない……!」
 わたしは一瞬だけ目を閉じて考えるが、それでもすぐに決心して言う。
「その手でいこう。力とは、場合によっては使ってかまわないからこそあるもの。主よ、
後のことは任せておいてくれ」
「さすがシェリファ。ものわかりがよくて助かるよ」
 主は、にこりとしてそう言うと、なにかを集める姿勢を取って体を発光させた。

 我らは艦ごと姿を消した。
 正確に言うと、この艦も我らも状態を保ったままである。
 ほかの者たちからは見えないだけなのだ。
 主いわく、この艦と我らが存在する次元をずらしたとのことだが。
 正確には理解しきれなかったが、なんとなくなら分かった。
 ただ、もし一度でも姿をとらえられると、術は無効化してしまうそうだ。
 こちら側が意図して姿を見せた場合はまだ有効であるようだが。

 姿を消したり表したり。
 このような方法で敵をかく乱して、同士討ちをさせるかたちで戦いは幕を閉じた。
 勝ったというにはあまりにもお粗末であるが、一応は我々が勝利した。
「それじゃ、僕は少し休むから、後のことは頼んだよ」
 そして、力を使い果たした主は気を失い、そばにある椅子にだらりと座りこんだ。

                            シェリファ・ヴァイヤード 

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