Short Stories  -  ぬいぐるみと腐女子 No.01
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

ぼくのはじまり

 ぼく、ひよこ。ひよことはいっても、本物ではなく、ぬいぐるみなのだ。ぼくたちを作
っている人たちがそう呼んでいた。そう、ぼくと同じ姿かたちをしたぬいぐるみも次々と
作られているんだ。
 そこでなのだけれど、ちょっと問題が起こったらしい。どうにもそれはぼくにあるんだ
って。ほかのひよこたちはいい具合にできあがったみたいなのだけれど、ぼくだけ少し不
格好になってしまったのだとか。
 でも、売りものにできないほどでもないから、ぼくも含め、何体ずつか箱に詰められて
送り出されることになったんだ。どこかに運ばれた後、そこで迎え入れてくれる人間が現
れるまで待つのだということは分かる。
 はあ、それにしても狭いし暗い……。
 いざ、箱ごと移動させられてどこかに置かれたかと思いきや、なにかたたきつけるよう
な音がして、それから間もなくしてうなるような音も聞こえてきた。なんだかまた移動し
ているようだけれど、今度は振動がすさまじい。なんとも形容しにくいこの気持ちは、確
かドナドナっていうのだったと思う。
 目的地に着いてから、箱を開けられたときには、ぼくたちはもう疲れきっていてピヨピ
ヨな状態だった。
 そのときなのだけれど、その箱を開けた人が、なにやらいらだっているようで、耳にな
にかを当てながらなにかしゃべっている。
 あれ、聞き間違いかな。「困るんですよ。わずかとはいえ、形の崩れたものを送ってこ
られると。本分は書店ですが、ぬいぐるみだからいい加減な出来のものでいいというわけ
ではないんですよ。――――はあ、ひとまず了承いたしました。セール品としてしばらく
うちに置いておきますが、それでも売れないようでしたら送り返しとさせていただきます」
ああ、これは危機間違いない。売れずに送り返されたぬいぐるみがどうなるかだなんて、
ぼくにだってなんとなく分かる。
 はたして買い手が見つかるのか。こうして、ぼくは気が気でない日々を送ることとなっ
た。



ぼくたちの出会い

 あれから、ぼくがここに連れてこられてから結構な時間が経った。人々は相変わらず、
ぼくのほうを見向きもしないで、並べられているいろんな柄の、本というもののほうに流
れていく。
 いや、こっちに来る人はぽつぽついるんだ。でも、みんなすぐに離れていってしまって
さ。ぼくを手に取ってくれたと思っても、すぐにもとの場所に戻されてしまう。そうして
次はいつだれがやって来るのか、張り詰めた気持ちで待ち構えている。
 それから間もなくして、次の客人が来た。女の子というには大きいけれど、女性という
ほど大人びている感じでもなく。女の人というのがしっくりくるかな。
 彼女はぼくのことをまじまじと見ている。どうせ不細工だと思っているんだろうな……。
「なんかびくびくしてるように見える」
 びびびくびくなんかしてないやい!
「まあいいか。さてと……」
 そう言って彼女は、どこかうきうきした様子で、本のあるほうへと向かっていく。それ
に「びいえる」とかなんとか言っていたような。
 さっきの、人間のなかでもきれいな女の人。彼女のことがなんとなく気になった。幸い
にもぼくの視界の範囲にいたので、じっと見ていた。
 彼女は真剣な表情で、お目当ての本をさがしているようだ。そしてなにかを見つけるた
びに、怪しい笑みを浮かべている。もしかして、見た目とは裏腹に邪悪な人間なのだろう
か。
 それからしばらくして、彼女は、選び終えたらしい何冊かの本を持って、再びこちらに
やって来た。
「お、まだ残ってたか」
 ……ぼくもそろそろ覚悟したほうがいいのだろう。だれにも買われることなく、処分さ
れるのだということを。
「こいつ、よく見てるとなんだかおもしろいな」
 もういっそのこと笑ってくれ。
「それじゃ、行きましょ」
 …………え。彼女は確かにぼくを手に取ってそう言った。もしかして買ってくれるつも
りなのだろうか。本当に?
 そして、そう困惑している合間にも、レジのほうへと連れて行かれる。肌色の割合が多
い柄の本の上に乗せられて。
 助かった、本当に助かった。でもそれ以上に、ぼくの心は嬉しさでいっぱいだった。会
計のときに、担当の男の人に、嫌そうな顔をされたけれど、それすらも気にならないほど
だ。
 彼女は帰り際に、あのぐらいで顔をしかめるあの店員は新人だなと言っていたけれど、
そういうものなのだろうか。次いで、ああいうのは攻めに見せかけた受けだとかなんとか
言っていたけれど、なんのことかは気にしないことにした。
 とにかく助かったのだ。それも、あまりにも事が上手く運んで、不安になるぐらいだけ
れど。ついでに、彼女にはどこか変なところがあるけれど。少なくとも、送り返されて廃
棄されるよりは余程いい。たとえこの先どうなろうとも、これはこれでいいのだと思えそ
うだ。

B A C K | N E X T
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - ...